大阪地方裁判所 昭和49年(わ)105号 判決 1975年3月19日
本店所在地
吹田市藤白台四丁目二三番一号
商号
株式会社 井入工務店
(代表者井入龍男)
本籍
吹田市藤白台四丁目一二五番地の一三七
住居
吹田市藤白台四丁目二三番一号
株式会社井入工務店代表取締役
井入龍男
昭和一一年八月二六日生
右両名に対する法人税法違反被告事件につき当裁判所は検察官桐生哲雄、弁護人河合伸一(主任)各出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
1。 被告人株式会社井入工務店を罰金一九〇〇万円に処する。
2. 被告人井入龍男を懲役一〇月に処する。
同被告人に対しこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社井入工務店は、吹田市藤白台四丁目二三番一号に本店をおき、土地建物の売買等の事業を営んでいるもの、被告人井入龍男は、右株式会社井入工務店の代表取締役としてその業務全般を統轄しているものであるが、被告人株式会社井入工務店の右業務に関し、法人税を免れようと企て、
第一、被告人株式会社井入工務店の昭和四五年二月一日から昭和四六年一月三一日までの事業年度において、その(犯則)所得金額が一億五九一九万九五八七円で、これに対する法人税額が五四七八万二六〇〇円であるのにかかわらず、公表経理上売上・期末たな卸の一部を除外し架空仕入を計上するなどの行為により、右所得金額のうち一億三七三〇万六〇五八円を秘匿したうえ、昭和四六年三月三一日、大阪市福島区所在大阪福島税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が二一八九万三五二九円で、これに対する法人税額が四六七万〇二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税五〇一一万二四〇〇円を免れ、
第二、被告人井入工務店の昭和四六年二月一日から昭和四七年一月三一日までの事業年度において、その(犯則)所得金額が一億一七三一万一六六四円で、これに対する法人税が四〇三六万一六〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により、右所得金額のうち一億〇四三五万九四九九円を秘匿したうえ、昭和四七年三月三一日、前記大阪福島税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一二九五万二一六五円で、これに対する法人税額が二一〇万二七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税三八二五万八九〇〇円を免れ、
たものである。
(証拠の標目) 注四八・一・一=昭和四八年一月一日付
判示全事実につき
一、被告人の当公判廷における供述
一、被告人の検察官に対する供述調書
一、大蔵事務官作成の被告人に対する質問てん末書(一五通)、同抄本(二通)
一、田原禮子、横道薫の検察官に対する各供述調書
一、大蔵事務官作成の次の者に対する各質問てん末書
井入絹子、田原禮子(四七・一一・二八、四八・一・一一、四八・二・一四、四八・三・二〇、四八・五・一九-二通、四八・五・二二、四八・七・三)
一、次の者の作成した各確認書
田原禮子(一〇通)、重富ノシヱ、古木守、松本明夫、吉田槇雄、網場鹿都実、久保田賢三、並川新、室隆志、山野豊、村田勝、林一夫、川上治、湯口千恵子、永井明、中川義晴、横道薫(三通)、川上峻生神原茂、加藤康夫
一、次の者の作成した各供述書
村田勝、林一夫
一、次の者の作成した各照会回答書
山本美穂、森正克、井上竹代、玉井和子、中田広宣、石井聰一郎
一、次の大蔵事務官作成の各調査報告書
大崎英夫外四名(四八・七・五、調査元帳/関係)、南和夫(六通)、田中精之、大崎英夫外一名、
大崎英夫
一、押収してある元帳一綴(昭和四九年押第五五九号の一)、総勘定元帳一綴(同号の二)
判示第一の事実につき、
一、大蔵事務官作成の次の者に対する各質問てん末書
田原禮子(四八・四・一〇)、松井忠利
一、大蔵事務官大崎英夫外四名作成の調査報告書(四八・七・五、銀行元帳関係)
一、大阪福島税務署長認証の昭和四五年二月一日から同四六年一月三一日までの事業年度にかかる法人税確定申告書謄本
判示第二の事実につき、
一、証人田原禮子の当公判廷における供述
一、大蔵事務官作成の大野務に対する質問てん末書
一、次の者の作成した各確認書
大野裕、坂口満信、河内美好、沖秀一郎、安井国雄、宮平とめ代、堀川直時
一、大阪福島税務署長認証の昭和四六年二月一日から同四七年一月三一日までの事業年度にかかる法人税確定申告書謄本
一、摂津信用金庫片山支店作成の回答書(抵当権設定金銭消費貸借契約書写など添付)
一、押収してある解約済普通預金通帳二冊(昭和四九年押第五五九号の一)
(売上繰延について)
弁護人は、被告人井入龍男が本件各年度においていわゆる売上繰延をほ脱の犯意により行つた事実はないのであるから、昭和四五年二月一日からの事業年度(判示第一関係)における井添孝に対する売上の繰延(五七〇万円)および昭和四六年二月一日から事業年度(判示第二関係)における堀川直時に対する売上の繰延(七〇〇万円)についてはいずれも犯則所得から除外されるべきである旨主張している。
前掲関係証拠等によると、井添孝、堀川直時に対する各売上が客観的には検察官主張の各年度の所得として計上されるべきものであること、にも拘らず、いずれもそれが次年度の所得として取扱われていることが明らかであるから、これらがほ脱の故意をもつてなされた売上の繰延であるかどうかが問題となるところ、当時被告人会社の顧問税務会計事務所に勤務し、被告会社の経理を担当していて、右の点の具体的事情を明かにする立場にある田原禮子は、当公判廷において、井添分は被告人井入龍男から引渡しがおくれているので売上計上を次年度になすべき旨指示され、これに従つたものであり、堀川分は、当時ローンの設定、入金事実を把握していた預金通帳上の入金記載が次年度(昭和四七年二月二一日)となつていたため、これに従つて計上したものにすぎない旨証言しており、右後者については、これを裏付ける普通預金通帳(昭和四七年一月三一日に入金されたものであるのに、通帳上同年二月一二日入金と記入されているもの)が存在する。一般的にいつて、引渡しが若干おくれたり、一部未完成であつたからといつてそれが元来ローン設定、入金時に計上すべき売上をおくらせる理由とならないことは被告人井入龍男自らが当公判廷で認めるところであるから、右田原の証言を前提としても、かかる指示を行つた被告人の目的が、結局当該年度の売上の減少計上(その一因としてほ脱)にあつたことは明らかというべく、井添関係については、ほ脱の犯意に基く売上の繰延と認めるのが相当である。他方、堀川関係については、検察官指摘の各証拠をもつてしても、その売上繰延が田原の証言するが如き事情によるものであつた疑いが相当に残るので、疑わしきは被告人側に有利に取扱うべきものとする刑事訴訟法上の原則に従い、ほ脱犯意による売上繰延から除外することとする(検察官は、被告人井入龍男の当公判廷による供述と田原の証言とが矛盾すると指摘しているが、同被告人の供述態度は、井添分、堀川分その他個々の具体的な売上の事情に関し、極めて不明確であつて、真にその記憶に基いてなされたものとは解されず、右矛盾をもつて田原証言排斥の有力な証左とはなしえない。又、田原禮子の査察段階での供述等が、一般的には相当措信できるものとしても、それ故に、これを全面的に正確なものとし、同人が通帳の後日記入を奇貨し、当公判廷で虚偽の供述をしたものとまで断ずることは、その当公判廷における供述態度等に照らし必ずしも相当とはいえない。)
もつとも、堀川直時に対する売上の繰延が犯則所得から除外される場合には、これに対応して期末たな卸額が増加する訳であつて、そのことによる犯則所得の変動を考慮する必要があるところ、大蔵事務官南和夫作成の調査報告書(四八・五・一)および田原禮子作成の確認書(四八・五・一八-期末たな卸等関係)によると、堀川直時の事案を含む吹田荘園における昭和四六年二月一日からの事業年度の期中売上は土地五四六・四〇平方米(内堀川分六二・九八平方米)、建物二三二・七五平方米(内堀川分五七・三五平方米)とされ、これに対する期末たな卸計算上の差引額は土地につき一五九八万七〇七九円(単価二万九二五八円九三銭)、建物につき五九五万六三三七円(単価二万五五九〇円〇四銭)とされているから、右堀川直時の土地、建物の売上を期中から除外した場合には、土地分一八四万二七二七円、建物分一四六万七五八八円を、期末たな卸計算上過大に差引かれていたものとして修正し、期末たな卸高をそれだけ増額すべきこととなる。従つて、判示第二の犯則所得の算出にあたつては、堀川分の売上高七〇〇万円を減額するとともに期末たな卸(土地、建物)につき合計三三一万〇三一五円を増額し、判示のとおり、犯則所得額を一億一七三一万一六六四円とし、別紙のとおり脱税額を計算したものである。
(法令の適用)
一、被告人株式会社井入工務店
法人税法第一六四条第一項、第一五九条第一項、第二項、刑法第四五条前段、第四八条第二項
二、被告人井入龍男
法人税法第一五九条第一項(懲役刑選択)、刑法第四五条前段、第四七条本文、第一〇条(判示第一に加重)、第二五条第一項
(量刑事由)
各犯行の動機、態様、結果(とくにそのほ脱税額合計八八三七万一三〇〇円およびほ脱税率平均約九二・九パーセント)、事後の事情、被告人井入龍男の経歴、被告人株式会社井入工務店の事業規模、内容等を考慮した。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 堀内信明)
脱税額計算書
昭和46年2月1日ないし同47年1月31日期